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寄稿・便り
瀬戸内しまなみ海道サイクリングツアー
稲葉信之(75135)
かねてから一度やってみたいと思っていた尾道から今治までのしまなみ海道サイクリングにチャレンジしました。
東京から尾道に入り迎えた翌朝は、薄曇りの暑からず寒からず風も穏やかでサイクリングには最適の天気になりました。まずは駅前のサイクルステーションで変速機付きクロスバイクを借り、通学生で混み合うフェリーに乗り込んで対岸の向島に渡ります。そこからいよいよサイクリングのスタートとなり、順々に因島、生口島、大三島、伯方島そして大島と合計六つの島を通り、今治まで約70キロ余りの行程を巡ります。しまなみ海道サイクリングということで自動車有料道路に沿って自転車道があり、スイスイ行けると思いがちですが、その部分は各島間の橋を渡るときだけで、60キロ余りは島の中の一般道をひたすら走るルートなのです。とはいえ、道に迷わぬようブルーペイントで進路が表示され、各所に案内板も整備されていてとても快適です。各島の街の様子が窺え、現地の人との会話も楽しめて車で高速道路を通り過ぎては味わえぬ旅情もあります。
厄介なのは島を繋ぐ橋へのアプローチで約50メートル余りの高低差があり、ビルにしたら16~17階程度をその都度登らなければなりません。登坂ルートは橋より長い蛇行路(4/100m勾配)もあり、変速ギア比を落とし、腰を上げて息を切らしながら登ります。苦労して橋の入口にたどり着けば(自動車橋の下段を走る因島大橋を除き)青い海と空そして瀬戸内海に浮かぶ多くの島々を一望しながら進む、まさに天国のロードになります。橋を渡ってから一気に麓まで風を切りながら駆け抜ける爽快さも最高です。
向島から因島そして日本のレモン栽培発祥地の生口島へ入ります。島の中心の瀬戸田の街で穏やかな海を眺めながらレモンジェラートで一服し、名物の穴子丼で昼食後、この地が生誕地ということで建てられた平山郁夫美術館に立ち寄り、同画伯の幼少期の絵日記からシルクロードの大作に至るまで多くの絵画を鑑賞しました。隣には西の日光と呼ばれるちょっと派手で奇異な耕三寺もありますが、平山郁夫美術館は一見の価値があります。
瀬戸田の街並みを過ぎ、椰子並木のサンセットビーチを横目に見て、レモン畑の間の坂道を上ると多々羅大橋で、この橋を渡ると大三島となり今日はこの島の民宿に泊まります。
橋を渡った袂の公園に石積みで造ったサイクリストの聖地碑があり、瀬戸内海と島をバックに記念撮影をしたりして休憩の後、民宿に向けて出発し午後4時頃にチェックインしました。早々に風呂に入って疲れを癒し、湯上りに飲んだ冷たいビールの喉から食道に染み渡る快感はもう堪りません。待ちに待った夕食は瀬戸内の魚三昧で刺身、焼き魚、天麩羅に煮魚や小鍋など食べきれぬほどで、これで1泊2食9000円とは格安でした。
二日目は民宿から伯方島へのルートに向かう前に、大山祇(おおやまづみ)神社に参拝することにしました。5キロ余りの峠越えの寄り道を往復しなければなりませんが、なんとこの島の中で国宝8点、重要文化財682点も保有する神社なのです。古事記や日本書紀にも書かれた由緒あるお宮で、瀬戸内海の中心に鎮座し、源平時代にも戦勝祈願やお礼参りで多くの太刀と鎧が奉納されており、弁慶や義経の奉納した長刀や鎧もあり驚きです。全国の宝物指定となる武具類の約8割が保存展示されているとのことで、刀剣女子もきっと感涙!?することでしょう。
国宝館を拝観し旅の安全を祈願してから、来た道を戻って大三島橋を渡り、製塩で有名な伯方島を通り抜けて大島に入り、必見ポイントの村上海賊ミュージアムに立ち寄りました。海賊と言っても、瀬戸内海の多くの島々の地形や潮の流れを把握し、水先案内等で栄えた海上武士集団で、由緒正しい一族との紹介がありました。
ミュージアムで軽食をとり、サイクリングもいよいよ最終ステージに入り最後の難所の坂道を越えて、しまなみ海道最長の来島海峡大橋を渡ります。全長は4105mで連結された3つの大橋を通り瀬戸内海を渡り切って遂に四国に入ります。ここまで来るとさすがに疲れもたまり、ちょっとした振動も堪えます。なるべく段差を避けてお尻を浮かしてペダルをこぎ、路面表示の今治までの距離をカウントダウンしながら進みます。残り10キロを過ぎてからは短い様で長い様な感覚になり、橋を渡り終え今治の街を前方に眺めながら、一気に坂を駆け下りてからも市街地がしばらく続き、ゴールまでがとても長く思えました。そして午後3時を少し回った頃に今治駅前のサイクルステーションに無事辿り着き、寄り道含め約80キロ、自分にとっては最長のサイクリングを走破しました。
景色も食べ物も十分堪能しましたが、何といっても瀬戸内海の島めぐりを自分の足だけを使って経験したことが一番の思い出になりました。